スポット溶接機の解説と使い方

2020年4月14月更新


1.スポット溶接とは

 エネルギー研究部が出場してるEne-1という大会ではマシンの動力に単3形ニッケル水素充電池40本が使われています.ニッケル水素電池一本あたりの起電力は1.2Vです. 一方マシンに搭載されているモータの電圧は24Vもしくは48Vです.このため電池にてモータを駆動させるには電池を20直列2並列,または40直列にする必要があります. 電池を多数直列に繋ぐ方法として一番手っ取り早いのは電池ボックスを直列につなぐことですが,これでは電池ボックスと電池の接触抵抗が大きくなり,これによる損失が大きくなってしまいます. (市販の電池ボックスは1A流すと赤熱するらしい)

 それなのでEne-1ではスポット溶接という手法を用いて電池同士を直列に電池パックを作る方法が取られています.スポット溶接の図を図1に示します.

図1 スポット溶接

図1 スポット溶接

 スポット溶接とは金属の接合法である溶接の一種であり,溶接したい金属同士に電極棒を当てつけ,電極棒に大電流を流し,そのときに発生する抵抗熱で金属同士を溶接するというものです.点で溶接するのでスポット溶接と呼ばれます.電池同士の接続にこの手法を用いることによって電池ボックスを使用した際に生じた接触抵抗による損失はほぼなくなります.

 肝心のスポット溶接機なのですが,電池用のスポット溶接機はニッチな需要なのか個人で手軽に使えるものはそれなりの金額になります.スポット溶接機を導入しようとした時のエネルギー研究部はお金がなかったので筆者が自作したスポット溶接機を使用して電池のスポット溶接を行っています.


2.スポット溶接機の解説

図2に自作したスポット溶接機の内部回路を示します.

図2 スポット溶接機の内部回路

図2 スポット溶接機の内部回路

 構造としては俗にコンデンサ式スポット溶接と呼ばれているものです. ACアダプタから供給された電荷は多数並列に接続されたコンデンサに充電され,コンデンサに充電された電荷はMOSFETを介して溶接棒に電流を流し溶接という流れです. 筆者の作ったものでは電流を流す時間を制御するためマイコンを使用いています.

 コンデンサを使用する他に鉛蓄電池,ニッケル水素電池を使う方式もあるそうです. その他にも根本的に仕組みが違うトランス式スポット溶接機というものもあります,これはトランスを用いて電流量を増やすという方法らしいですが. 筆者は怖くて作ってません.


3.スポット溶接機の使い方

この節では筆者が作ったスポット溶接機の使い方に関して説明します.実際のスポット溶接機の画像を図3に示します.

図3 スポット溶接機

図3 スポット溶接機

 大まかに分けて,溶接機本体,電極棒,フットスイッチの3つから成っています.

使い方としては溶接棒を溶接したい金属に押し当て,フットスイッチを踏み込み電流を流します.

3.1.溶接手順

ニッケル水素電池を溶接する場合を想定した溶接手順を以下に示します.

  1. 溶接する2つの電池を万力等で固定する.この時電池が傷付いたり,通電しないようMDFなどで当て木する.

  2. ニッケルの薄板を15mmで切る.

  3. 図4のようにニッケルの薄板の両端に切り込みを入れる.これを行うことにより電流の最短経路がニッケルの薄板状ではなく電池を介すことになり,溶接の強度が上がる.

  4. 図4 ニッケルの薄板の両端に切り込みを入れる

    図4 ニッケルの薄板の両端に切り込みを入れる

  5. 切込みを入れたニッケルの薄板は湾曲していると思うので,溶接がしやすいよう何かしらで平たくする.

  6. ニッケルの薄板に手脂がついている場合そのままだと溶接の強度が落ちる事があるのでパーツクリーナー等で脱脂する.

  7. ニッケルの薄板を電池の電極の上に載せる.

  8. スポット溶接機の電極棒の先端をヤスリで綺麗にし,ゴミを取り除く.

  9. 図5のように溶接機の電極棒をニッケルの薄板に押し当てる.この時押し当てる強さは気持ち強く程度の方が良い.この感覚は練習しないとわからないので電池切れの電池等で練習すること.

  10. 図5 溶接機の電極棒をニッケルの薄板に押し当てる

    図5 溶接機の電極棒をニッケルの薄板に押し当てる

  11. フットスイッチを押し,電流を流す.

  12. (8),(9)の作業を電池の電極1つにあたり2回,合計8点を溶接する.この時,マイナス極に比べプラス極は溶接の難易度が高いので注意する

  13. スパークが起き,電極棒とニッケルの薄板がくっついた場合,溶接棒を軸方向に回し外す.その後手順(7)と同様,電極棒の先端をヤスリで綺麗にする.

  14. 電池切れの電池で練習した時,溶接の強度を調べるにはニッケルの薄板と電池を引き剥がす,この時溶接した点が電池側にくっついてたら溶接強度は十分である.

  15. (1)~(9)の作業を直列に繋ぐ電池分行い,電池パックを作成する.

  16. コネクタとの接続はニッケルの薄板を片方はケーブルとはんだ付け,片方はスポット溶接という方法で接続する.ケーブルをはんだ付けしたニッケルの薄板は外れやすいので,6点以上スポット溶接を行う.


4.さいごに

 以上がスポット溶接機の解説と使い方です.Ene-1では電池同士をスポット溶接する他に塩ビパイプに入れボルトで押し付け電池パックにするという手法もありますが,スポット溶接をした方がサイズが小さくなり取り回しが良くなるためおすすめです. ただしスポット溶接の強度が弱い場合走行中の衝撃で溶接が外れてしまう場合があるので注意が必要になります.これは強めに溶接できたと思っても何の前触れもなく突然外れることがあるため本当に注意してください.

また,筆者の作ったスポット溶接機はその時あったありあわせの部品で作ったため,もっと改良できる点が多くあると思います.後の後輩が更に良いものを作ってくれることを期待しています.



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