【思考実験】富士山の1/3を消し飛ばせるビーム兵器の出力について

2020年4月29日更新


神 々 の 黄 昏


こんにちは,エネ研の平部員です.コロナ禍のなかいかがお過ごしでしょうか

最近,エヴァンゲリオン新劇場版序,破,Qの3作がYouTubeで無料公開されましたね

大学が閉鎖され,ここ最近は悶々とした引きこもり生活を送っている筆者ですが,自習のお供に脇でずっと再生してました

昔見たことがあるアニメやドラマって,内容知ってるから変に気を取られることもないので作業用BGMにちょうどいいんですよね

で,あるときふと手元から画面に目をやると,ちょうど "第6の使徒 ラミエル" が,超強力なビーム攻撃で山の1/3くらいを一瞬にして消し飛ばしてるところでした

オレでなきゃ見逃しちゃうね

・・・おや?

・・・・・・おやおや???

いったいどのくらいのエネルギーのビームを放てば山の一部が消し飛ぶんだ???

困りました

一旦気になり始めた筆者は夜も眠くなるまで眠れません

ということで,山の一部を消し飛ばせるほどのビーム兵器は一体どのくらいの出力なのか考えてみました




目          次
1. 富士山の1/3を消し飛ばすのに必要なエネルギー
2. ビームの出力を計算してみる
3. 必要な電力を作るのにかかる時間(日本規模)
4. 必要な電力を作るのにかかる時間(世界規模)
5. まとめ
6. 参考文献




1. 富士山の1/3を消し飛ばすのに必要なエネルギー


山といってもいろんな山がありますが,せっかくなので日本一の山,富士山で計算してみたいと思います
富士山は見た感じきれいな円錐形なので,ざっくり円錐に近似して計算します(図1)

図1. 富士山のモデル
図1. 富士山のモデル

ググってみると,富士山の裾野の広さは最大直径約44 [$\mathrm{km}$],南北約37 [$\mathrm{km}$],東西約39 [$\mathrm{km}$]らしいです[1]
そこで,ざっくりと富士山の裾野の広さを40.0 $\mathrm{km}$,高さを3776 $\mathrm{m}$とします
$D = 4.00 \times 10^4$ [$\mathrm{m}$],$h = 3776$ [$\mathrm{m}$]とすれば(図1),富士山の体積の1/3は \[ \frac{1}{3} \times \frac{1}{3} \times \pi \times \left( \frac{D}{2} \right)^2 \times h = \frac{1}{3} \times \frac{1}{3} \times \pi \times \left( \frac{4.00 \times 10^4}{2} \right)^2 \times 3776 = 5.27 \times 10^{11} \; \mathrm{[m^3]} \] と計算できます

富士山の細かい地質とかを考え始めると日が暮れるので,ざっくり富士山が玄武岩の塊だとします
佐藤・佐々木[2]によれば,採掘されたままの乾燥した玄武岩の密度は 2.38 [$\mathrm{\times 10^3 kg/m^3}$],比熱は0.854 [$\mathrm{\times 10^3 J/(kg \cdot K)}$]らしいです
また,理科年表より[3],玄武岩の融点はだいたい1100℃です

以上のことから,富士山の1/3の体積を融解させるのに必要なエネルギーはだいたい \[ 2.38 \times 10^{3} \times 5.27 \times 10^{11} \times 0.854 \times 10^{3} \times 1100 = 1.18 \times 10^{21} \; \mathrm{[J]} \; \; \; \dotsb \dotsb (1) \] と見積もれます
本記事では,(1)を富士山の1/3を消し飛ばすのに必要なエネルギーとします




2. ビームの出力を計算してみる


まず,ビーム兵器について検討します
ビーム兵器と一言でいってもいろいろあります
レーザーポインターのような光を使うものや,ガンダムのビームライフルのように粒子を加速させて撃ち出すものなど
Wikipediaをみると,第6の使徒ラミエルの攻撃は "加粒子砲" らしいです
加粒子砲とか頭の悪い筆者にはよくわかんないので,とりあえず光を使ったレーザー兵器として考えてみることにします

※この章ではベクトルの知識を使いますが,ベクトルは太字または2重線で表すことにします

さて,図1の円錐について,媒介変数$u$,$v$をとります(図2)

図2. 円錐の媒介変数表示
図2. 円錐の媒介変数表示

このとき,円錐の表面は次のベクトル$\boldsymbol{r}(u,v)$により表せます($0 \leq u \leq D/2$,$-\pi \leq v \leq \pi$) \[ \boldsymbol{r}(u,v) = \begin{bmatrix} u \cos{v} \\ u \sin{v} \\ h(1 - \Large \frac{2}{D} \normalsize u) \end{bmatrix} \; \; \; \dotsb \dotsb (2) \] この曲面$\boldsymbol{r}(u,v)$上に微小面積要素$dA$を考えると,次のように書けます \[ dA = \left| \frac{\partial \boldsymbol{r}}{\partial u} \times \frac{\partial \boldsymbol{r}}{\partial v} \right| dudv = \frac{2}{D} \sqrt{\left( \frac{D}{2} \right)^2 + h^2} dudv \; \; \; \dotsb \dotsb (3) \] また,曲面の単位法線ベクトル$\boldsymbol{n}$は \[ \boldsymbol{n} = \frac{ \Large \frac{\partial \boldsymbol{r}}{\partial u} \normalsize \times \Large \frac{\partial \boldsymbol{r}}{\partial v} \normalsize }{\left| \Large \frac{\partial \boldsymbol{r}}{\partial u} \normalsize \times \Large \frac{\partial \boldsymbol{r}}{\partial v} \normalsize \right|} = \frac{1}{\sqrt{\left( \Large \frac{D}{2} \normalsize \right)^2 + h^2}} \begin{bmatrix} -h \cos{v} \\ -h \sin{v} \\ \Large \frac{D}{2} \normalsize \end{bmatrix} \; \; \; \dotsb \dotsb (4) \] と書けます

レーザーの出力密度を$\boldsymbol{I}$ [$\mathrm{W/m^2}$]とします
レーザーが$x$軸と平行な方向から円錐に照射されたとすると,$\boldsymbol{I}$は次のように書けます(図3)
\[ \boldsymbol{I} = \begin{bmatrix} -I \\ 0 \\ 0 \\ \end{bmatrix} \; \; \; \dotsb \dotsb (5) \]
図3. 円錐にレーザー照射
図3. 円錐にレーザー照射

このとき,円錐の微小面要素$dA$が吸収するエネルギー$dW$ [$\mathrm{W}$]は次のように表せます \[ dW = \eta \boldsymbol{I} \cdot \boldsymbol{n} dA = \frac{2h}{D} \eta Iu \cos{v} dudv \; \; \; \dotsb \dotsb (6) \] $\eta$は山に照射したレーザーのうち何割が吸収されるかを表す係数です($0 \leq \eta \leq 1$)

細かい計算は大変なので,円錐の片面にレーザーが当たったとすると,円錐が単位時間あたりに吸収するエネルギー$W$ [$\mathrm{W}$]は \[ W = \frac{2h}{D} \eta I \int_{- \pi /2}^{\pi /2} \int_{0}^{D/2} u \cos{v} dudv = \frac{Dh}{2} \eta I \; \mathrm{[W]} \; \; \; \dotsb \dotsb (7) \] となります
富士山を真横からすっぽり覆える超極太ビームですね

さて,エヴァンゲリオン新劇場版序でラミエルが山を消し飛ばしてる映像を見ながらスマホのストップウォッチでビームの照射時間を計ってみると,僕のガバガバ計測では5秒くらいでした
これと(1)の値から,富士山の1/3を5秒間で消し飛ばすのに必要な単位時間あたりのエネルギー$W$ [$\mathrm{W}$]は \[ W = 1.18 \times 10^{21} \div 5 = 2.36 \times 10^{20} \; \mathrm{[W]} \] となります

レーザーのエネルギーのうち何割が富士山に吸収されるかは調べてもよくわからなかったので,とりあえず$\eta = 1$とします
また,$D = 4.00 \times 10^4$ [$\mathrm{m}$],$h = 3776$ [$\mathrm{m}$]としたので,これらの値からレーザーの単位面積あたりの出力$I$は \[ I = \frac{2W}{\eta Dh} = \frac{2 \times 2.36 \times 10^{20}}{1 \times 4.00 \times 10^4 \times 3776} = 3.13 \times 10^{12} \; \mathrm{[W/m^2]} \; \; \; \dotsb \dotsb (8) \] と計算できます
これが求めたかったレーザーの出力です

ちなみに,太陽光が地表面の単位面積あたりに与えるエネルギーはおよそ1 [$\mathrm{kW/m^2}$]らしいです
式(8)の値はそれの31億倍......恐ろしいですね笑




3. レーザー兵器の運用に必要な電力を作るのにかかる時間(日本規模)


富士山の1/3を消し飛ばすのに$1.18 \times 10^{21}$ [$ \mathrm{J} $]という桁違いのエネルギーが必要なことがわかりました
これだけのエネルギーを電力で賄うにはどれだけ時間がかかるかを計算してみたいと思います

簡単のため,ここでは送電ロスなどの諸々の損失は考えないことにします

資源エネルギー庁の2019年度統計表一覧[4]を見てみます
日本で発電量が一番多かった月は8月で,この月の電力量は$115121271 \times 10^{3}$ [$ \mathrm{kWh} $]とあります
これをジュールに直すと,1ヶ月あたりに日本で得られる電力量は \[ 115121271 \times 10^{3} \; \mathrm{[kWh]} = 1.15121271 \times 10^{14} \; \mathrm{[Wh]} = 4.144365756 \times 10^{17} \; \mathrm{[J]} \] ということになります

このレベルの発電を続けて富士山の1/3を消し飛ばすのに必要なエネルギーを得るのにかかる時間は \[ \frac{1.18 \times 10^{21}}{4.144365756 \times 10^{17}} = 2850 \; \mathrm{[ヶ月]} = 237 \; \mathrm{[年]} \] と見積もれます

わけが分からないですね




4. レーザー兵器の運用に必要な電力を作るのにかかる時間(世界規模)


日本の発電量だと富士山の1/3を一瞬で消し飛ばすエネルギーを集めるのに237年かかることがわかりました
世界規模の発電量だとどうなるのか計算してみたいと思います

簡単のため,ここでも送電ロスなどの諸々の損失は考えないことにします

BP(イギリスのエネルギー事業を手掛ける会社)のStatistical Review of World Energyを見てみます[5]
すると,2018年の年間の発電量は$26614.8$ [$ \mathrm{TWh} $]みたいです
これをジュールに直すと,1年間に世界で得られる電力量は \[ 26614.8 \; \mathrm{[TWh]} = 2.66148 \times 10^{16} \; \mathrm{[Wh]} = 9.58133 \times 10^{19} \; \mathrm{[J]} \] ということになります

このレベルの発電を続けて富士山の1/3を消し飛ばすのに必要なエネルギーを得るのにかかる時間は \[ \frac{1.18 \times 10^{21}}{9.58133 \times 10^{19}} = 12.3 \; \mathrm{[年]} \] と見積もれます

わけが分からないですね(2度目)




5. まとめ


・富士山の1/3を一瞬で消し飛ばすのに必要なレーザーの出力密度は$3.13 \times 10^{12} \; \mathrm{[W/m^2]}$

・これは太陽が地表面に与える単位面積あたりの出力の31億倍くらい強力

・日本の発電能力だと必要なエネルギーを集めるまでに237年くらいかかる

・世界の発電能力でも必要なエネルギーを集めるまでに12.3年くらいかかる


いかがでしたか?
富士山の1/3を消し飛ばすのには途方もないエネルギーが必要だということがわかりましたね
この記事をみてエネルギーに興味を持ったあなた,是非エネ研に遊びに来てください!
それでは(@^^)/~~~




6. 参考文献


[1] 山梨日日新聞社,富士山Net,富士山の大きさ,https://www.fujisan-net.jp/post_detail/2001646,最終閲覧日 2020年4月28日.

[2] 佐藤・佐々木,岩の伝熱および熱水浸透流による熱拡散係数の実験的研究,土木学会論文集,Vol.1984,No.351(1984),p.132.

[3] 国立天文台編:理科年表2020,p.758.

[4] 経済産業省 資源エネルギー庁,各種統計情報,2019年度 統計表一覧,発電実績,https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/results.html#faq,最終閲覧日 2020年4月29日.

[5] BP p.l.c.,Statistical Review of World Energy,Statistical Review of World Energy - all data, 1965-2018,https://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html,最終閲覧日 2020年4月29日.





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